溶媒の脱気、脱水について
みなさん溶媒の脱気脱水ってどれくらい気にしていますか。
自分はとても気にしています。
なんせ自分の化合物は水、酸素がいれば反応するもやしっ子ですので、過保護なまでに水と酸素の除去を行っています。
脱水については、自分の研究室(日本の)では関東から購入した脱水溶媒をLAHやカリウムミラーで一晩乾燥し、蒸留することで使用しています。
カリウムミラーとはカリウム単体をシュレンクフラスコにいれ、加熱、蒸発させることでフラスコ内にカリウムの膜を張り、ここに溶媒を入れることで脱水する方法です。
加熱はライターでやってます。
ターボライターならやりやすいかな。
一点のみをあぶらないとうまく張れないので慣れが必要ですが、この方法では水だけでなく酸素までも除けるため非常に信頼性が高いです。
もともと乾燥してある乾燥溶媒を乾燥するって意味あるのか?
とよく聞かれます。
通常の合成だったら必要ないでしょう。
グリニャーとかブチリチつかう程度ならば。
んで、今回書きたかったのは脱気についてです。
脱気と言ってもアルゴンバブリングで済む場合もあるし、凍結脱気を行う場合もあるでしょう。
この凍結脱気。
英語ではFreeze-Pump-Thawと書きます。
みなさんどうやってますか?
いろいろ方法があると思いますが、紹介までに書いてみたいと思います。
まずは溶媒を凍らせる。
当然です。
凍らせなければ脱気と共に溶媒ばいばいです。
凍らせるのは大体液体窒素を使いますね。
凍傷に気をつけましょう。
充分凍ったらシュレンクのコックをあけ、真空ポンプでひきます。
げろげろ。
メーターがおちつくまで待ちましょう
メーターが落ち着いたらコックを閉じ、溶媒を溶かします。
このとき研究室によってやり方はまちまちらしいです。
そのまま液体窒素から出してただ待つ。
というところもあれば
水、またはぬるま湯で溶媒全体をあたためて溶かす。
というところもあります。
うちの研究室ではヒートガンであぶります。
爆発しないの?
と、よく聞かれます。
爆発したことは無いです。
一応真空下ですし、気をつけてます。
ただこの時注意することがありまして、凍った溶媒を上から溶かしていきます。
これ下からやるとシュレンクの底が抜けます。
その様子はさながらラピュタの窯の底が抜けるようです。
非常に危険です。
底が抜けたあかつきにはカリウム単体もしくはLAHが飛び散り、火がでます。
これはぜひとも体験したくないものです。
なので溶かす時には溶媒の上の方から。
そしていざ底が抜けた場合に備えて必ず燃えないトレイなどを下に置いておくことです。
なんでこんなことが起きるかって。
それは当然、下から溶かすと増えた溶媒体積分の行き場が無くなるからです。
上から溶かせば問題ありません。
そして溶かし終わったらまた凍らせます。
これを3回繰り返しましょう。
そしたら大体溶存気体は除けてます。
ちなみにメタノールなどのアルコール類を凍結脱気するといかに丁寧にやっててもシュレンクの底が抜けるので注意です。
この場合ある程度アルゴンバブリングで酸素を抜き、凍結脱気を一度だけ行えばよいでしょう。
そしてライントランスファーで終了。
ライントランスファーについてですが、これは一種の減圧蒸留です。
真空ラインを用いて蒸留する方法で、非常に簡単に、短時間で行えます。
方法は一方に脱気乾燥したシュレンクAを真空ラインにつなぎ、もう一方に凍結脱気が終わったシュレンクBをつなげます。
シュレンクAを真空にし、さらに液体窒素で冷やします。
そして溶媒を入れてあるシュレンクBと真空ラインをつなげると、常温であるシュレンクBの溶媒は蒸発し、冷やされているシュレンクAへ移り、凍ります。
すべての溶媒を移し終わったらシュレンクAの溶媒を溶かし、アルゴンで戻して終了です。
シュレンクBはアルゴンで常圧に戻し、THFでLAHを溶かして、これを氷水に加えることでつぶします。
カリウムミラーの場合にはイソプロパノール:トルエン = 1:2もしくは1:3くらいの混合溶媒を一気に加え、放置します。
このときはがれたカリウム単体が溶媒表面に浮いてきて酸素と反応し、火が出ることがあります。
なので浮いてきたらスパチュラで撹拌しましょう。
火が出てしまったらセプタムやガラスコックでふたをし、中の酸素を使わせてしまうのが手っ取り早く消火できる方法です。
この他にもベンゾフェノンケチルを用いた蒸留などさまざま方法はありますが、うちの研究室でよくやってる方法なのでとりあえず書いてみました。